早生樹の可能性
林業が魅力的な仕事へと収支構造を大きく転換する可能性があると注目されているのが、「早生樹(そうせいじゅ)」です。
住宅に多く使われているスギやヒノキは伐採まで50~60年の年月が掛かりますが、早生樹は10~30年で伐採が可能です。植林から伐採まで3世代もの時が必要と言われている林業において、植えた本人が伐採し収入を得られる早生樹は建築材やバイオマス発電などの燃料への利用など、外材との価格競争にも対抗できる樹種として期待が高まっています。
早生樹の樹種は、家具などの材料として使われるマホガニーが属するセンダンやユーカリ、唐松、海外ではラジアータパイン、コウヨウザンなどが広く知られています。
早生樹には針葉樹4種(ヒノキ、スギ、アカマツ、クロマツ)のように林業種苗法の「苗木の移動範囲の制限(配布区域の指定)」の規定がないため、先行して取り組んでいる地域から苗木の提供が受けやすく、新たな取り組みをはじめやすいというメリットがあります。
ヒノキと同じ強度「コウヨウザン」
「コウヨウザン」という早生樹があります。
コウヨウザンはヒノキ科の常緑針葉樹で、中国南部原産で台湾にも分布し、日本ではなじみのない木ですが、中国では重要な造林樹種として建築材などに広く利用されています。日本には江戸時代以前から各地に移入されたようです。
コウヨウザンを知っている方や名前を聞いたことがある方はいないと思いますが、私にとっては子供の頃から身近にある大変に馴染みのある樹種です。コウヨウザンとしては国内最大の森林が実家の裏山に存在しています。この森林は戦前に台湾で林学を教えた曽祖父が持ち帰り試験的に植林したもので今年60年生になります。
コウヨウザンが注目されはじめた主な理由は次の3つです。
・成長速度がスギの約2倍。
・ヒノキと同程度の強度がある。
・萌芽更新(切り株から株立ちして成長)する。
コウヨウザンはスギ、ヒノキと比べて成長が早いことから年輪が粗く、これまで住宅には活用されてきませんでした。しかしながらヒノキと同じ強度があり、成長がスギより早く、スギの半分の約30年で出荷できることが分かり注目されるようになりました。
さらに伐採後の再造林にかかるコストも抑えることができる樹種です。
スギ、ヒノキは伐採後、苗木を山に植えて再造林します。
まずは苗場で1~3年かけて苗木を育て、山に植え付けをします。小さい苗木を保護するために雑草木を刈り取り日光を確保する「下刈り」を、苗木が他の草木より高く成長する5~10年間まで繰り返し行わなければなりません。
一方でコウヨウザンは伐採後、切り株から自然と発芽することや、草が茂る地面ではなく切り株の上から発芽するため日光が当たりやすいことなどから、スギ、ヒノキに比べて「下刈り」の頻度を減らすことができます。
これらのことからコウヨウザンは、林業の収支構造を大きく転換する可能性があると言われています。
また林業の収支構造が変れば、住宅価格にも影響を及ぼすのではないかと思います。強度のある国産材が安定して安く供給されれば、木造住宅のコストも下がる可能性がありますし、無垢の床材を希望したがコストが高いから断念したなんてことも解消されるかもしれません。
ただし、住宅建材として広く普及するにはまだまだ先のお話です。成長速度が早いといっても30年後ですし、認知度が低いコウヨウザンを林業家にも広め、一定量の材木が出荷できるのは次世代となるでしょう。
でも、林業を変える可能性を秘めた「コウヨウザン」の今後に期待です!