従来、木造といえば住宅を連想し、特に三階建てまでの建築が主流とされてきました。
その理由は、木造が鉄筋コンクリート造や鉄骨造と比較して燃えやすく、強度が劣ると考えられていたため、高層や大規模な建築物には適さないと見なされていたからです。
しかし近年、木材技術や設計手法の進化により、高層や大規模な建築物に木造が採用される事例が増加し、数多くの計画が実現しています。特に、2022年3月には、ゼネコン大手の大林組が日本初となる高さ44m(11階)の高層純木造耐火ビル「Port Plus」(横浜市中区)を完成させました。この建物は、柱・梁・床・壁といった主要構造部に全て木材を使用した純木造の革新的な事例として注目を集めています。
このように、住宅用途を超えた高層や大規模建築に木造が採用される背景には、以下の要因が挙げられます。
環境負荷の問題や法整備について
木造建築が注目される背景には、環境負荷の低減が大きく関係しています。木材は成長過程で二酸化炭素を吸収するため、建築に利用することで炭素を固定化できる持続可能な資源です。また、他の建材に比べて製造時のエネルギー消費量が少ないため、温室効果ガスの排出量削減にも寄与します。
さらに、日本は国土の約66%が森林で占められており、これを有効活用することは、地域経済の活性化や森林管理の推進にもつながります。持続可能な形で木材を供給する仕組みを整えることで、地元の林業を支援し、輸入材への依存を減らすことが可能です。
一方で、木造建築の拡大には法整備も重要です。日本では、2000年に建築基準法が改正され、木造でも耐火性能を確保する設計が可能となりました。
その後、2013年12月にはCLT(直交集成板)の製造規格となるJAS(日本農林規格)が制定、2016年にはCLTの利用を促進するためのさらなる法改正が行われました。これにより、高層や大規模建築物にも適用可能な設計基準が整備され、木造建築の可能性が大きく広がっています。また、防火性能や耐震性能の向上を目的とした技術開発が進む中で、法規制に適合した安全な木造建築が実現可能となっています。
高層や大規模建築を木造で建てるメリット
以下は、木造で高層や大規模建築を建てる具体的なメリットです。
1.環境負荷の低減
・木材は再生可能な資源であり、使用することで炭素固定化効果が期待できます。
・他の建材に比べて製造プロセスがエネルギー効率に優れています。
2.経済性メリット
・木材は軽量で輸送コストが低く、工期の短縮による人件費削減が期待できます。
・プレハブ工法を利用することで施工効率が向上し、トータルコストの削減につながります。
3.SDGsへの貢献
・木造建築は持続可能な資源を活用し、カーボンニュートラルの実現に寄与します。
・解体時の廃棄物量が少なく、再利用やリサイクルがしやすいため、廃棄コストの削減が見込まれます。
・企業としての環境配慮の姿勢を示し、社会的評価やブランド価値の向上につながります。
4.デザイン性と温かみ
・木材特有の自然な質感や温かみは、利用者にリラックス効果をもたらします。
・デザインの自由度が高く、個性的で魅力的な空間を作り出すことができます。
5.軽量性と施工性の向上
・鉄骨造や鉄筋コンクリート造に比べて軽量なため、輸送コストや工期の短縮が可能です。
・プレハブ化が容易で、施工現場での作業効率も向上します。
6.その他の利点
・木材の断熱性能が高いため、エネルギー効率の良い建築が可能です。
・音の吸収性に優れ、快適な室内環境を提供します。
高層・大規模木造建築で留意すべき課題
一方で、木造で高層や大規模建築を建てる際に留意すべき課題には、以下のようなものがあります。
1.防火性能の確保
・木材は可燃性があるため、耐火性能を確保するための設計が必須です。
・耐火木材や防火設備の導入により、法規制をクリアする必要があります。
・防火に特化した材料の高コストが全体予算に影響を及ぼす場合があります。
2.湿気やシロアリ対策
・木材は湿気に弱く、適切な防水処理や換気設計が必要です。
・シロアリなどの害虫被害を防ぐため、防虫処理や定期的な点検が不可欠です。
・湿気や害虫が引き起こす構造劣化のリスク評価が必要です。
3.耐震性能の設計
・高層建築では、地震時の横揺れに対する構造計算が重要です。
・木材特有の柔軟性を活かした耐震設計が求められますが、精密なシミュレーションや検証が必要となります。
4.コストの課題
・高性能な耐火木材やCLTの導入は、従来の木造よりもコストが高くなる可能性があります。
・長期的な視点でのコストメリットを評価する必要があります。
5.今後の課題
・高層化や大規模化に伴い、建材供給の安定性が課題となる場合があります。
・地域や国際的な供給ネットワークの確立が必要です。
・大規模建築における一貫した品質管理が求められます。
木造建築のさらなる普及には、これらの課題に対する技術革新、法規制の適応、そして社会的な理解と協力が欠かせません。これにより、環境と経済の両面で持続可能な木造建築の未来が実現するでしょう。