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「夜勤明けの日は、昼が私の“夜”なんです。」
昼夜逆転の働き方は、家族とすれ違うだけでなく、家の中の“音”とも向き合う必要があります。
今回は、看護師として夜勤勤務を続ける奥様と、そのご家族のために考えられた「眠りを守る間取り設計」をご紹介します。
工務店との対話の中で見えてきたのは、家族の音と上手に距離をとるという発想でした。
昼に寝る妻、遊ぶ子ども、働く夫。すれ違う音の生活
K様ご夫婦はともに30代。奥様は総合病院に勤務する看護師で、月に7〜8回の夜勤勤務があります。
ご主人はリモートワークがメインで、自宅でのオンライン会議も多く、4歳の娘さんは保育園に通っています。
「夜勤明けで帰ってくるのが朝8時。9時すぎにシャワーを浴びて、ようやくベッドへ。でも夫の会議の声や、休日に娘が遊ぶ音が聞こえると、眠れないんです…」
注文住宅を建てる際、「静かに眠れる部屋が最優先」と、奥様が最初に相談されたのがこの“音のストレス”でした。
音を遠ざける? 防ぐ? 2つのアプローチ
当初、K様ご夫婦は「とにかく静かな寝室を」と考えて、間取りを検討され、選択肢は大きく2つに分かれました。
- ① 音源(LDK・子ども部屋・ランドリールーム)から離して配置する
- ② 間取りは多少近くても、防音建材で遮音性能を高める
どちらが良いかは立地や建物構造にもよりますが、K様のご希望は「物理的に距離をとる」方向でした。
中庭が“音の緩衝帯”になるという発想
ここで工務店が提案したのが、中庭をはさんだ寝室配置です。
LDKと寝室の間に小さな中庭を挟むことで、
- ・音源と就寝空間に“距離”ができる
- ・音が中庭に抜けて、壁で反響・侵入しにくくなる
- ・人の動線が寝室の近くを通らず、視覚的にも静けさが保たれる
という3つの効果が生まれます。
🔶マッチングコーディネータの視点!
これまでのご相談経験からお伝えできるのは、
「防音=高価な素材」と思われがちですが、実は“生活音との距離”を設計で確保する方が合理的なケースも多いということです。
たとえば、
- ・寝室とテレビの間に収納やクローゼットを挟む
- ・壁ではなく空間ごと“外す”ことで心理的な圧迫も軽減
- ・中庭のような“音の逃げ場”をつくることで反響音を分散
K様邸では、距離と空間配置による“音の干渉回避”をベースにしながら、必要最低限の防音建材(壁)で補完する、というバランス型の設計が実現しました。
“防音”と“家族の生活”の両立
K様が採用した間取りは、次のような構成です。
- ・寝室は1階の裏側に配置し、中庭を挟んでLDKと向かい合う形に。
- ・隣室にはウォークインクローゼットを設け、壁の音漏れを防ぐ“二重緩衝帯”として機能させています。
- ・緑化による吸音効果を活用するため、中庭には木々を植え、静かな住環境づくりを実現しました。
ご主人は「日中、子どもとリビングで遊んでいても気にせず過ごせる」と実感され、
奥様も「ちゃんと眠れる日が増えて、仕事に集中できるようになった」と安心されています。
“音からの距離”を設計に落とし込むという選択
夜勤のある家庭は、働き方だけでなく暮らし方の時間軸がずれています。
それを前提に「静かに眠れる場所をどう確保するか」は、ただの間取りではなく、生活の質を守る設計そのものです。
K様のように、音を「材料」で止めるのではなく、「空間設計」で遠ざける発想は、これからの注文住宅において、もっと広く知られるべき選択肢かもしれません。