S様ご夫婦(夫 45歳、妻 42歳)のご長男(15歳)は、幼いころから脳性まひにより車椅子を使って生活しています。これまでは中古住宅を改修して暮らしていたものの、段差・廊下幅・トイレ移動の狭さなど、毎日の「ちょっとしたストレス」が積み重なっていました。進学・進路も見据えながら、今後暮らす自宅を“完全バリアフリー・ユニバーサル設計”を目指そうというのが、S様ご家族の建て替えテーマでした。
ユニバーサル設計で役立つポイント3つ!
・車椅子利用者と同居する家で検討すべき設計の選択肢
・それぞれの選択肢におけるメリット・デメリット
・実際に選ばれたプランと、そこに至る判断・妥協点
平屋 + スロープ重視型 vs 2階建てで1階集中型
車椅子対応住宅を考える際、大きく2つの方向性(プラン)があります。
【平屋+スロープ重視型】
家をすべて一階に収め、玄関から主要スペースまでスロープ・段差ゼロでつなぐスタイル。
●メリット
・動線がシンプル。玄関 → リビング → 浴室 → トイレへ直線的につなげやすい
・段差なし空間を実現しやすく、車椅子での移動がストレスになりにくい
・将来的には増築・改修もやりやすく、将来的介護対応力が高い
●デメリット
・土地の広さが必要。敷地面積・形状に制限が出やすい
・屋根や基礎のコスト比率が上がる(延べ床面積比でコストが割高になりやすい)
・視線・採光・プライバシー設計で苦労することも
【2階建てで1階に全機能を集中型】
2階建て構造を採りつつ、日常の生活・動線・寝室・水回りをすべて1階にまとめ、将来的な使い勝手を確保する形式。
●メリット
・敷地を有効活用できる:狭い土地でも2階を使える
・将来的に2階を活用する余地を残せる
・家族構成の変化に対応しやすく、1階機能+予備スペースが共存できる
●デメリット
・2階との高低差(階段部・構造上の段差)をどう扱うか設計負荷が増える
・将来、階段移動が困難になったとき、2階部分は使えない可能性がある
・断熱・耐震設計の難易度が上がりやすい
S様が選んだのは「1階集中型」
S様が住むエリアでは、都市近郊ゆえに土地の広さが限られていました。理想を言えば平屋にしたかったものの、希望する庭や採光計画を叶えるには、どうしても1階だけでは敷地が足りないという結論に至りました。
そこで、構造は2階建てとしつつも、1階に「リビング・ダイニング・キッチン・寝室・トイレ・浴室」をすべて配置し、ご長男様が自身で生活できる「1階集中型」を採用。2階は夫婦寝室、日常の利用頻度が低い書斎と客間とし、将来的な可変スペースとして残すことにしました。さらに、いずれエレベータ設置が検討できるようなスペースを確保し、しばらくは収納スペースとして利用することに。
具体的な設計の工夫は、2階躯体は軽量化を意識し、1階の耐震・断熱に力を入れ、1階の天井高をゆとりある2.7 mにしたことで、ゆったりとした日常空間を得ることができました。S様は「1階ですべてが完結」している安心感と、「将来の可変性」が両立した住まいを得られ大変満足されていました。
マッチングコーディネータの視点!
バリアフリー・ユニバーサル設計を成功させるうえで重要なのは生活動線。介助者の動線だけでなく、介助をする家族が疲れない動線を作ることです。そして、今は問題なくても、車椅子に加えて寝たきり・介助レベル変化など、10年・20年先を見据えた設計を検討することです。
ユニバーサル化は、ドア幅拡張・手すり仕込み・構造補強などで、建築費全体の3〜10%の追加が見込まれることがあります。だからこそ、「これは絶対に必要・これは将来でも対応できる」設計を家族で優先順位をつけておくと後悔が少なくなります。
「玄関 → リビング → トイレ → 浴室 → 寝室」などの日常生活で、現在抱えるストレスを家族で書き出してみましょう。