T様ご夫妻は、ご夫婦そろって家庭菜園が趣味で、将来的には自給野菜を中心とした暮らしを実現したいというご要望がありました。
これまでベランダでの栽培経験はあるものの、育てられる野菜の種類や量に限界を感じており、「もっと本格的に畑を楽しみたい」との思いが強くなっていました。
また、日々の家事動線も重視されており、「できればキッチンのすぐ近くに畑スペースを設けて、収穫後すぐに調理に取りかかれるような間取りにしたい」というご希望がありました。
一方で、T様の土地は地域の建ぺい率や日照条件の制約があり、理想通りの庭スペースを確保できるかどうか不安がありました。
家庭菜園のポイント3つ!
・家庭菜園を意識した間取りの基本原則
・“使いやすさ”を左右する動線・収納・水まわりの設計のコツ
・狭小地・屋上活用・一般地のケース別アイデアと注意点
家と畑の配置バランスに悩む
T様ご家族が注文住宅を計画するにあたり、「家庭菜園をどこに・どう設けるか」は非常に重要なテーマでした。
土地は66坪と広さに余裕があるものの、日照条件や建ぺい率、住宅配置との兼ね合いから、思い描いていた通りにいかないこともわかってきました。
工務店から受けた提案は3つ
T様は工務店に家庭菜園の夢を率直にお伝えし、現在の悩みを相談しました。そして具体的に受けた提案は次の3つでした。
①建物を北寄りに配置し、南側に広く庭をとるプラン
一番理想に近い配置。広々とした南庭にしっかり日が当たる畑を作る案です。
【メリット】
・一日を通して日照が確保でき、家庭菜園には最適
・キッチンから直接アクセスしやすく、収穫→調理の動線がスムーズ
・庭を家族の共有空間(ウッドデッキや芝生)としても使える
【課題】
・建物を北に寄せるため、隣地との境界ギリギリになりやすく、設計上の配慮が必要
・プライバシーの確保(道路からの視線対策)が必要になる
・南面が道路に面しているため、フェンスや植栽など外構コストもかさむ
②屋上を家庭菜園として活用するプラン
敷地全体を建物や駐車スペースに使い、家庭菜園は屋上で実現するという発想。
【メリット】
・地上のスペースを圧迫せず、建物全体を有効に活用できる
・周囲の建物や道路からの視線を遮れるため、落ち着いた作業環境になる
・日照を安定して確保しやすい
【課題】
・屋上に土や水を扱うには構造補強が必要となり、建築費用が大幅にアップ
・重たい荷物(培養土、肥料、収穫物など)の運搬が大変
・屋上の防水・排水処理をしっかり計画しないと、後々雨漏りリスクが残る
③東側または北東の“余白スペース”を畑に活かすプラン
建物と駐車場を南側に配置し、残った東~北側のスペースを菜園に活用するという現実的な案も浮上。
【メリット】
・敷地配置の自由度が高く、建物デザインとのバランスをとりやすい
・隣家との距離も取りやすく、風通し・作業性は確保しやすい
・小規模な菜園からスタートし、あとで拡大が可能
【課題】
・午後以降の日照が遮られやすく、栽培できる野菜に限りが出る
・キッチンや勝手口との動線を慎重に設計しないと、日常的な使い勝手に影響
・見えづらい位置になるため、手入れを後回しにしがち
菜園の日当たりとキッチンへの動線で決定!
T様ご家族が最終的に選ばれたのは、建物を北寄りに配置し、南側に広く庭を確保するプランでした。
家庭菜園を日常の一部としてしっかり楽しみたいという思いから、何より優先したのは「日当たりの良さ」と「キッチンからのスムーズな動線」でした。
南側の庭に4m×8mほどの畑スペースを確保し、キッチンから勝手口を通ってすぐに出られる間取りにしたことで、収穫から調理までの流れが非常にスムーズになりました。また、畑のそばには屋外水栓と小さな作業台、農具用の物置も設置。庭全体を「育てる」「くつろぐ」「食べる」がつながる空間として活用できており、ご家族にとっても自然と庭に出る時間が増えたそうです。
一方で、妥協した点もありました。
建物を北に寄せたことで、北側の隣地との距離がやや狭くなり、採光計画や外構に一部制約が出たこと。
また、南側が道路に面していたため、外からの視線対策として目隠しフェンスと植栽を多めに設ける必要があり、その分外構費用が予定より増加しました。
それでも、「菜園のある暮らしを最優先にしたい」という軸をぶらさずに進めたことで、納得のいく家づくりができ、道路に沿って植栽を植えたことで家の中からの景色も創造以上に良くなったとT様は振り返られています。
マッチングコーディネータの視点!
T様のように「家庭菜園を暮らしの中心にしたい」という想いがある場合、設計の初期段階でその優先順位をはっきり伝えることがとても重要です。
動線や日当たり、外構計画まで含めた“トータル設計”が必要になるため、後から変更が難しいポイントも多くあります。
また、敷地条件やご予算によってはすべてを理想通りにするのは難しいこともありますが、設計段階から相談して「どこを譲り、どこをこだわるか」を一緒に整理することで、結果的に納得のいく家づくりに近づけます。
まずは計画地のどこが一番家庭菜園に理想的な場所になるかをいろいろな時間帯で観察してみましょう。