大変重要なご指摘です
- 2003-05-03
- 名前:ザ・ハウス
上田さん、こんにちは
「建築家ってなんだろう」、ということは、建て主が建築家に設計を依頼するとき、必ず一度は問わなければならないことですし、その正しい認識があって初めて建築家で建てるメリットがあるものと考えています。その意味において、「建築家とは」あるいは「建築家で建てる」とはどういうことかを、建て主だけではなく当の建築家や施工を担当する工務店も含め、常に問い直す必要があります。
ザ・ハウスの考える「建築家」について、以下に述べさせていただきます。少々長くなりますが、ご参考ください。(なお、弊社の見解は、住宅に関することに限らせていただきます)
(1)「建築士」=「建築家」?
建築士の免許があれば住宅が建てられるかというと、決してそうではありません。住宅は1人でほぼ全ての工程にかかわるため、技術面での総合力が求められます。建築士の職種によっては、例えばホテルのロビーなりビルの設備なりだけを設計している方もいらっしゃり、このような専門的建築士の方が住宅を設計することには無理があります。また、住宅を設計する上で、技術と同じくらいに大切なことは、建て主といいコミュニケーションをとることができ、信頼関係を構築できる能力を持った方に限ります。
これは資質や人生経験が大きく影響し、もともと住宅設計に向かない性格の建築士の方も少なからずいらっしゃいます。逆に、免許を持っていなくても、素晴らしい仕事をされている方もいらっしゃいます。つまり、「建築士」=「建築家」ということは全く成り立ちません。
(2)「設計技術が高い」=「建築家」?
設計技術に関して言えば、かなりの部分において設計経験の量と比例します。工務店にお勤めの建築士より多くの設計経験をもつ建築家はごく少数であり、建築家を名乗るほとんどの方よりも工務店の設計技術の方が高いと考えられます。
しかし、ほんの一握りの建築家はきわめて高い設計技術をお持ちで、そのエッセンスは工務店の建築士が施工の都合やハードづくりということに縛られているのに対して、自由に素材や工法を研究・実践でき、また「住」という奥深い分野を純粋にソフトの面から追求できるというところにあります。
(3)「デザイン力が高い」=「建築家」?
今までの建築家の概念の中心は「デザイン力の高さ」にあったかと思いますが、一概にそうとは言えなくなっています。ハウスメーカーも規格商品とはいえ、デザイン力が目覚しく上がっていますし、工務店のデザイン力も今後あがっていくものと予想されます。
ある専門的な視点で見たデザイン力は圧倒的に建築家が有利であり、今後も変わることはありませんが、基本的にデザインは主観的なものですので、建て主の最大公約数が期待するデザイン力で言えば、建築家の優位性は確定的とはいえません。
(4)大工の棟梁や工務店の建築士は建築家?
これはごく単純な理由からそうとはいえません。ひとつは、建築家として成り立つだけ設計能力があるのなら、そちらに専業しているはずだろうということです。結局、施工とあわせたパッケージとしてしか成り立たないのであれば、自律的な職能とはいえません。
また、建築家には監理という設計と並ぶくらい重要な仕事があります。大工の棟梁や工務店の建築士は、自社の監理、つまり監理する会社と監理される会社が同じ状況しかありえませんので、監理技術はともかく、監視的な機能は成り立ちません。
以上のように、建築家と名乗る方は多くても、ザ・ハウスが建築家と考える方はごく少数といえます。
もうひとつ能力とならんで重要なことは、「建築家で建てる」というスキームを理解しているかどうかです。ころっけさんへの返信にも書きましたが、いくら能力が高くても、これを理解していなければ、依頼するメリットはありません。
そのようなことも考慮して以下にザ・ハウスが求める建築家像を述べて見ます。
ザ・ハウスが求める建築家の職能1
設計技術・デザイン力とも工務店にお勤めの建築士やハウスメーカーのそれを上回ることが必要です。建築家の施工をされた工務店さんの感想として、「本当に勉強になった」と「あれなら俺にもできるよ」という2つに分かれます。後者の感想を持たれた方は、その正否は別にして、工務店からの信頼を得ることはできず、ひいてはいい家作りのためのいいチームワークをもち得ないことになります。
ザ・ハウスが求める建築家の職能2
建築家に依頼する一番の妙味は、世界に一つだけのそれぞれの家族にピッタリあった家が持てるということです。こう申し上げると、ハウスメーカーや工務店さんも、「うちだってそうだ」とおっしゃいますが、第一線の建築家が建て主の生活や考え方の奥底に照明をあて、それらを巧みに形にくみ上げていく様は、建て主にとってまさに「建築家に依頼してよかった」と思える瞬間かと思います。逆に、これができない方や理解していない方が建築家の看板を上げていることが、いろいろな問題を生む原因となります。
ザ・ハウスが求める建築家の職能3
これは職能というよりも、前述のスキームのメリットといえるかもしれませんが、工事の監理を施工側ではなく建て主側に立った建築家が行うということは、万一の手抜き工事や欠陥住宅を防ぐ上でとても大切です。また、設計の細かい部分などは監理時に直接施工側に伝えますので、監理が不十分だと考えていたイメージと違った住宅になることがあります。
以上、上手くまとまっていませんが、ザ・ハウスの考える建築家像を少しお分かりいただけたかと思います。ザ・ハウスは建て主に建築家をご紹介するものとして、上記に適しない方を「建築家」とは考えていません。
最後に、建築家と工務店の関係ですが、もともと、設計者と施工者という全く違う役割を担い、一人の建て主のために最高のチームワークを構築すべき両者なのですが、なぜか工務店さんで建築家を快く思っていない方がいらっしゃいます。
表面的には、設計施工が中心だった工務店の業務の一部を専門に請け負う存在が出てきたことに対する拒否反応のようなものに見えますが、実はもっと深刻な問題があります。
3年前に施行された品確法によって、瑕疵に対する工務店の責任が法制化されましたが、その責任は建築家には及んでいません。つまり、もし未熟な設計者が建て主の名の元に工務店にある仕様を強制して瑕疵が出た場合、その責任は全て工務店が取ることになります。これでは、建築家と工務店の健全な関係を築くことが難しい状況です。
しかし、本当に第一線の建築家は、自分がいいと思う工務店をとても大切にしており、大変良好な関係を作っていらっしゃいます。環境が整っていないことも事実ですが、建築家・工務店それぞれが、一途に建て主のことを考えていることも事実ですので、互敬の念を持って、いいチームワークをおつくりいただきたいと願っております。