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資金の壁を越えるまで
家づくりを動かし始めたとき、最初に向き合うことになったのは、間取りでも依頼先でもありませんでした。
資金をどうするのか――。
このテーマが、思っていた以上に家族の本音を浮かび上がらせ、「家づくりの現実」を私に最初に突きつけてきました。
とくに父は、建て替えの話題が出るたびに表情が曇り、会話が途中で止まってしまうことが続きました。
「別に」「まだ先だろ」と言いながら、どこか落ち着かないまま話題を終わらせてしまう。
その「別に」が、本音を隠す言葉だと分かってはいても、しばらく誰も踏み込めずにいました。
父の沈黙の理由
ある日、母と話していた際に、ずっと曖昧だった父の態度の理由がようやく分かりました。
父は、「建て替えるなら、自分が費用を全額出さなければならない」と、本気で思い込んでいたのです。
不機嫌に見えていたのは、家族のために責任を果たしたい気持ちと、実際に用意できる金額との間で揺れていたから。
「貯金は崩したくない」という表向きの言葉の奥に、“できない自分を認めたくない”という葛藤が、静かに溜まっていたのでしょう。
家づくりには、夢や希望のスタートだけではなく、実はこうした「本音の交錯」もたくさんあります。
そのことを、施主として深く実感した瞬間でした。
資金の話を進める中で、私自身が住宅ローンを組むことも検討していました。
収入的にも借入自体は可能で、気持ちの準備もありました。
けれど、私ひとりが借り入れできる金額には限度があり、建て替え費用の全額をまかなえるほどではありません。
「ローンを組めばどうにかなる」わけではない。
家づくりでは、家族全体で現実と向き合う必要があるのです。
そんな中、母が静かに口にした一言が、状況を動かします。
流れを変えた母の一言
進まない話に行き詰まりを感じていた頃、状況を大きく変えたのは母の静かな一言でした。
「私が相続した土地、売ろうか?」
数年前、祖父の死去に伴い、母は古い建物付きの土地を相続していました。
特別に高額な資産ではないものの、売却できれば建替え資金の大部分をまかなえそうです。
父に無理をさせず、家族が前へ進むための現実的な方法が見つかった!
と喜んだのもつかの間で、そこから先がまた簡単ではありませんでした。
物件の売却は想像よりも複雑
複数の不動産会社に査定を依頼した段階で、
相続した物件ならではの課題が次々と明らかになりました。
1.長年住んでいる入居者さんがいる状態なので、退去対応まで適切に進められる新オーナー(買主) を選ぶ必要があった
相続した物件には、長く暮らしている入居者さんがいました。
オーナーである母が直接ご相談するという選択肢もありましたが、退去のお願いには生活への影響や手続き上の配慮が必要で、素人が判断するには難しい部分が多くあります。
そこで今回は、入居者さんの状況を理解したうえで、退去の手続きまでを適切に進められる新オーナー(買主)を選ぶという方針を取りました。
2.契約書類がほとんど残っておらず、相続後の整理から始める必要があった
母が物件オーナーになった当時、相続税の支払いや名義変更などの手続きが重なっていました。
そのため、管理会社さんに任せてしまった部分が多く、管理契約書も賃貸借契約書も、そろっていない状態だったのです。
本来であれば相続の段階で整理しておくべき書類でしたが、手続きに追われる中で肝心の物件まで気が回らなかったのは、相続ではよくあることでもあります。
書類の不足が一気に浮き彫りになり、「どこから手をつければいいのか」という焦りが生まれました。
知識として知っていた苦労が、現実の重さを伴って迫ってきたのです。
その状況の整理を手伝ってくださったのが日頃からお世話になっている株式会社ライトホーム・パートナーズの平賀さんでした。

平賀さんは以前ザ・ハウスで働いていた元スタッフ。建築・不動産の事情もよく理解している方です。
多面的な確認作業や、入居者さんの事情への配慮も含め、ひとつひとつ整えていただき、2025年10月末に売却が完了。
資金の算段がようやく終わり、胸の奥にあった重たい石が一つなくなりました。
資金が固まると、前へ動き始めた
資金の見通しが立ったことで、家族の空気は大きく変わりました。
これまで張り詰めていた家族会議は、
「新しい家でどう暮らしたい?」
「今後の生活に必要なことって何だろう?」
と、前向きな会話が中心に。 そしてついに、家族全員で建て替えすることを正式に決定できました。
施主として動き始める
家族の意思が揃い、資金も整い、次のステップは「誰に建ててもらうのか」です。
私は、自社の工務店マッチングサービスに申し込みました。
普段は“案内する側”として関わってきた場所に、今度は“利用者”として足を踏み入れる。
その感覚は不思議で、少し緊張しながらも、ようやく家づくりのスタートラインに立てました。
資金が整うまでの時間も、家族が気持ちを揃えるまでの時間も――どちらも家づくりの大切な“準備期間”だったのだと実感しています。この章を越えたことで、私はようやく「施主としての自分」を自覚することができました。
次回予告
自分が施主側の立場になって初めて感じたのは、「自分の要望を言葉にする難しさ」でした。
どう伝えたらいいのか、どこまで話せば伝わるのか――悩めば悩むほど言葉が出てこない。
実は、誰もが通る「最初のつまずき」だったことを、このとき初めて知りました。
想像もしていなかった「壁」にぶつかった、サービス受付時の様子をレポートします。



