風趣を添える住まいの折々

2018年5月11日

オーダーメイドの世界

川村 利恵

ザ・ハウス マッチングコーディネーター

1969年、埼玉県出身。住宅業界歴20年。アトリエ系設計事務所、不動産会社の企画部門に勤務の後、2007年に(株)ザ・ハウスのマッチングコーディネータに就任。二級建築士と福祉住環境コーディネータの資格を持ち、特に建築家との家づくりに関して豊富な実績がある。これまで796組の相談実績を有し、195邸の家づくりに携わる(2017年10月末現在)。

筆者

川村 利恵

洋服のオートクチュール(オーダーメイド)の世界って建築家の家づくりととても似ています。

母は今も現役でオートクチュールのお店をやっています。今思うと贅沢な悩みだったのかもしれませんが、子供の頃は妹と色違いのワンピースや、同じ生地で全く違うデザインの服を着ていました。デパートの子供服売り場にあるマネキンの既製服を着たいと駄々をこねた記憶があります。

モノクロミシン

ファストファッションとオートクチュール

今はファストファッションからオートクチュールまで、1枚のジャケットを選ぶにもさまざまな選択肢があります。今の仕事に就いて、仕立てて作る一品生産(オートクチュール)の世界は建築家の家づくりととても似ていることに気づきました。

依頼者が頭の中で思い描いている服を少しずつ具現化していきます。どんなシーンで着る服なのか、普段着?パーティ?晴れ舞台?ひとことでワンピース、スーツ、といっても着る人によって、シーンによってデザインの仕方が変わります。例えば、丈を2センチつまむだけでカジュアルにもフォーマルにも見え、印象はがらりと変わります。依頼者の思い描くものを想像し、着た時に笑顔がこぼれる「その人らしさ」をプロとして形作るのです。

人台333

生地の色、肌心地、フィット感、印象・・・。デザイナーは着る人のイメージを損なうことなく、その人がさらに美しく見える技能的なエッセンスを服に宿します。

プロの視点

「私は太っているからウエストを絞るデザインにはしたくない、ゆったりしたシルエットにしてほしい」とデザイナーに伝えるとします。ゆったりしたシルエットが好きなのではなく、太って見えるのが嫌だから、という消去法でのリクエスト。しかしプロから見たらとてもきれいなボディラインをした人。ただ言われるままのゆったりシルエットにしただけでは、本当の意味での満足したオーダー服にはならないことをデザイナーはわかっているのです。

服はウエストを細く強調することだけが美しいのではなく、タックの入れ方、長さ、詰め方、広げ方、ラインによっていくらでも美しく見せる方法があります。。

手

痩せているから美しいのではなく、バランスのとれた、体型にフィットした服のほうがよほど美しいことをデザイナーは知っています。

完成品を試着して驚くはずです。締め付けのないフィット感を体感します。フィット感と聞いて、普通はウェットスーツのような密着感を想像する人も多いでしょう。このフィット感のイメージは締め付けや肩の凝る状況もついて回りますが、締め付けのないフィット感がオートクチュールには存在します。なぜなら、その人の体型を細かく採寸し、その人だけのパターン(型紙)を引いて形にするからです。設計でいうパターンは設計図にあたります。

デッサン

サイズにぴったりの着心地の次には鏡に映る、見たことのない美しい体型の自分に感動するはずです。「私こんなにバランスのとれた体型だったかしら?スタイル良くなったみたい!こんな世界があるなんて」と。

ひとつひとつ丁寧に状況を聞き、時間をかけて生地やボタンを選び、パターンを引いて仮縫いをする。母のそばで完成した服に驚きながら、この形にしてよかった、作ってよかったと顔をほころばせる方を何人も見てきました。この原体験があるから、今の私は建築家を信頼できお客様に自信をもって建築家を紹介できるのかもしれません。建築家を信頼して進める覚悟と、信頼関係で進めていく工程はまさにオートクチュールの作り方だからです。